吾輩は芥川賞好きである。
年に二回、直木賞と一緒に選考会が行われる芥川賞。
有名どころの受賞作品でいえば、又吉先生の「火花」やそれと同時受賞の羽田圭介の「スクラップ&ビルド」など。
また太宰治や村上春樹が受賞できなかったことでも有名ですね。
太宰治にいたっては、川端康成に「頼むから芥川賞くれ!」って、手紙を書いたというエピソードもあります。
でも落とされたんですよね。
で、落とされた理由に「作者(太宰治)の生活がハレンチだから」的なこと書かれて、
キレた太宰が「川端、刺す」と今Twitterに書こうものなら警察も動いて炎上どころでは済まないようなメンヘラ気質を見せたという太宰の逸話がありますね。
太宰はかわいい。
芥川賞は学生のときは候補作まで読んでいました。
で、思ったのが
「芥川賞を取れなかった作品でも、面白いのあるよな……てかこっちのほうがおもろくない?」
そう、芥川賞という、商業的利権にまみれた栄誉を受け取れなくても、面白い作品は多い。
恋願わくば、こっちが有名になってほしかったのになぁ、という作品もある。
なので打線くんだ。
すごく好きな作品ばかりなので、どうかご一読頂ければ幸いである。
(書き手の趣味嗜好上、最近の作品が多いです。ご了承ください。これを読まずして、芥川賞を逃した作品の何を語れよう……というお気に入りの名作がありましたら、コメント欄でお知らせください……)
1 中 「好き好き大好き超愛してる。」舞城王太郎
タイトルバカっぽいよね。だが、それがいい!
覆面作家、舞城さんの恋愛(純愛)もの。タイトルはとてもバカっぽくて、内容も一瞬?ってなるけど、ちゃんと純愛の本です。
付き合うと、愛が重くなっちゃう系の人はドはまりするかも。
おそろしいくらいにうまく男の身勝手な純情さ、身勝手な一途、依存症的な愛、そういうものをぎゅーーーーっっと詰め込んでて、別に1ミリも好きじゃないがどうしても憎めないし嫌いになれない、主人公。
だって僕だもん。すいませんでした。
全然関係ないけど、吾輩のパソコンは「あい」で変換しようとすると必ず「亜依」ってなるんだよね。(上原)
2 二 「想像ラジオ」いとうせいこう
いとうせいこうさんの作品。芥川賞選考会においては、そのモチーフもあり結構たたかれていた。誰かが、「こうした重いテーマを扱うならば、もっと徹底的に軽く描いてほしかった」とうとう。
その「重いテーマ」が何なのかはネタバレなので言いません。
作品の核、もっとも面白いところは、読み進めていくことによって、この「想像ラジオ」が「重いテーマ」を扱っているんだ、と読者が気づくことにあります。
3 遊 「ジニのパズル」崔実
一作で消えて(今のところ)しまった「ちぇしる」さんの名作。
とにかく主人公、ジニの圧倒的なパワーが、本を通じてビンビンに伝わる。ジニに胸倉をつかまれ、これでいいのか! と問いかけられ、自分も立ち上がろうという勇気をもらえる。
これは芥川賞をとるべきだった、と個人的に思う。
確かに、作品として荒かった。文体が変わったり、冗長すぎるきらいもあった。
でも、これが芥川賞を受賞して、読まれる意味は大きかったと思う。
最後まで読むと(これはネタバレでもないので言うが)「ジニのパズル」のパズルは
パズルゲームではなく「puzzle(難問、あるいは困らせる人)」であったとわかる。
4 左 「ニキの屈辱」山崎ナオコーラ
「人のセックスを笑うな」でデビューした山崎ナオコーラさんの作品。
この回の芥川賞、受賞者が出なかったんですよね。僕としては、もうこの作品が受賞でいいかな、と思ってました。ナオコーラさん自身、結構なんども芥川賞にノミネートされていて、もう充分実績もあったし。
どっかで村上龍のインタビューで見たんですが、この回の芥川賞の選考、男性の選考委員はこの作品でいいんじゃない? って言ってたんですよね。
けれども、女性の選考員が全員×を付けたらしいです。
「男性は騙せたけど、女性は騙せなかった」
的なことを村上龍が言ってた気がします。知らんけど。
で、肝心の内容はナオコーラさんお得意の恋愛。
この「ニキの屈辱」は、カメラマンを目指す青年と、すでに写真家として売れているニキの恋愛ものなのですが、基本的に気をてらわないストーリー。
だけれども、ナオコーラさんの瑞々しい心情描写と、ナオコーラさんの生み出す場面、キャラクターによって終始胸キュン。キュン。たぶん、古坂大魔王みたいなおじさんでも「ニキの屈辱」を読んでいる間だけは、顔が小坂奈緒になっていると思う。
読んでる途中は「恋愛して~~~」ってなって、読み終わると「あぁ、いい恋愛したな……」ってなる。
山崎ナオコーラは僕でした。
5 一 「メタモルフォシス」羽田圭介
ハードSMの話。個人的にスクラップ&ビルドよりこっちのほうが吹っ切れてて好きだった。
というか、スクラップ&ビルドと根本にあるものは同じじゃない?(主人公が自分だけの価値観に執着して暴走する)と思ったら、羽田さん本人もそう言ってた。
個人的にはメタモルフォシスに乗っている「トーキョーの調教」のほうが好き。女子大生とテレビ局の会社員が「就活生と面接官」と「女王様と奴隷」という立場をいったりきたりする話。
マジで実写映画化希望。女子大生役は絶対水卜さくらで。でも、演技下手そうだからむりかぁ……
6 三 「遮光」中村文則
中村文則さんの芥川賞候補作。確か、二作目だったかな。中村文則さんの著作でいうと、「掏摸(スリ)」は本当に面白いから読んでほしい。日本人の書いた本で、一番くらいに好きかもしれない。
で、この遮光は、死んだ女の指をずっと持っている男の話。
ただそれだけ。純文学の王道っちゃあ王道っぽいけど、それだけに読ませる作品にするところが難しいところを流石は中村文則。サスペンスな雰囲気と緊張感で一気に引き込む。ロシア文学の影響を受けているのがわかるね、知らんけど。
7 捕 「最後の息子」吉田修一
今や大人気作家、吉田修一のデビュー作。数々の作品が映画化されているけど、その原点がこれ。
おかまの家で暮らす青年の話。たぶん、吉田修一作者自身の原体験とも共通するところがあるのだと思う。
仕事も金もなく、とんでもなく情けない主人公の「僕」がビジネス成功の金持ちおかまである「閻魔ちゃん」に飼われているのだが、この「僕」のキャラクターが秀逸。秀逸すぎて修一。吉田修一のキャラクターは輪郭がくっきりしているというか、立体的に見えるというか、本当にいそうなんである。
最後、あれだけ堂々と、信頼できる姿を見せていた閻魔ちゃんが主人公の電話一つで感情をかき乱される。
あのシーンがすごくいいのよ。だって、その電話、主人公は閻魔ちゃんを「見世物」にするために呼んだのだから。
なんだろう。吉田修一の本ってそういうところあるよね。
例えるならすげー罪を犯し続けてきた人間が、最後の最後死の淵で雲が晴れて日の光に照らされて、「あぁ……空って美しかったんだなっ……」って思って死ぬ映画のラストシーンみたいな。人生に対する肯定感がある気がするんだよね……
蝉がなぜ、仰向けで寝るか知ってるかい……?
最後に空を見たいからだよ
8 右 「サイドカーに犬」長嶋有
芥川賞受賞作「猛スピードで母は」よりこっちのほうが好きだったけど、同じこと思った人もいたみたいで、「サイドカーに犬」の方は映画化している。
余談だけど「サイドカーに犬」が映画されてそれを作者の父親が見た際に「映画の雰囲気を80年代にしようとしているのはわかった。でも、映画の中の家のものすべてが80年代のものはおかしい。70年代や60年代の家具や本もあるはずだ」的なこと言っているのを見て、なるほどな、と思った。なるほどな。
まぁ主人公の女の子の母親が家出して、その代わりにヨーコさんっていう父親の愛人がひと夏の間家に来るっていう話なんだけど、長嶋さんってほんと生活感だすのうまいんですわ。
もう、僕が主人公になる。主人公の10歳の娘になって、一緒に家族のこと心配するし、母親が帰ってきてヨーコさんと対立するときは一緒にハラハラする。
まだ僕が生まれていない、80年代の東京の街を歩いて、アイスを食べていた。僕は女の子だった。
9 投「風の歌を聴け」村上春樹
村上春樹のデビュー作。
彼が、経営するジャズ喫茶が終わった後、テーブルでカタカタタイプライターをうって作成した作品。
本人の著者くいわく、「送ったこと、全然忘れてて、作品が最終候補に残りました、って電話来て送ったこと思い出しました」
そんなことある?
こういう、村上春樹自身のすかしっぷりを素でやっちゃうのが村上春樹。小説なんども読んでるけど「風の歌を聴け」結構長くない? 結構制作に時間かかってない?
忘れる?結構、ハラハラドキドキしない?
余談だけど、日本人ってホントこういう無自覚が好きじゃない?絶対、「自分が美人とわかっていて、その外見をフル活用して生きているばりきゃりOL」より、「メガネを取るとクッソ美人だけど、そのことを自分は全く気が付いていないコンビニでバイトしている彼氏は今まで一人(高校の時ちょっと付き合っただけですぐ別れた)文学部歴史学科の女子大生」とかのほうが好きじゃない?
村上春樹の主人公の男たちも、こういうとこある。
とにかく、モテることに無自覚だ。
やれやれ(ため息)、と言って、フルーツナイフでワイン開けて、朝起きたら双子の女をベッドの両側においてねてるから。
そんで、「なんで僕がモテるんだろう……」とか言ってるから。
たぶん、顔だと思うよ。見えねぇけど、小説だから。ハウルくらいイケメンなんじゃねえの。
で、この村上春樹のデビュー作の「風の歌を聴け」は、純文学を読み狂ってしまった変人たち(全員インスタはやってない)要するに、こわいおじさんたちの評価はすごく高いですね。
でも、純文学を読んだことない人は、「え、これ何が面白いの…?」って反応をすることも多い。
今から3年くらい前、当時付き合っていた立教大学の彼女に村上春樹の本を貸して読ませてみたら、「読む拷問」と評されました。
いわく「ナルシシズムと唐突なセックスで童貞陰キャ臭さがここに極まってる」と言われました。
ちなみに彼女は陽キャの聖地、AセンチュアのIT部門で今は元気に⁉働いているそうです。チュア、チュア~~~。
いわば「風の歌を聴け」は、純文学いや、村上春樹のリトマス紙。
これが面白かったら、現存する村上春樹作品すべてが面白いという喜びが人生に爆誕します。
ようこそ、変人の世界へ。
まとめ
「ニキの屈辱」と「掏摸」だけは面白いから絶対読んでくれ……
くそみたいな俳優たちで映画化されても絶対みないけど。
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